2026年2月2日
失われたキモさを求めて
福尾が初の新書を書き始める。「分かりやすくしてもらうほど原典が遠ざかる」という 入門書のジレンマと、大学の「アウトリーチ」という言葉への長年の嫌悪。 千葉雅也『勉強の哲学』の「勉強するとキモくなる」を軸に、 ノリに回収されないもがきのキモさについて。
話の流れ
- 1:00初の新書を書く全く人文書を読んだことのない人でも読めるところまでいけるか。分かりやすい超解説にはしたくない。
- 2:10動物化するポストモダンは新書だった超平面性、可視的なもの、ラカン理論の謎の変形。あれを新書でやって10万部いっていた時代。
- 4:40入門書のジレンマ分かりやすくしてもらうほど原典が「私には近づけないもの」として遠ざかっていく。ドゥルーズもフーコーも読めますよ、というところまで持っていきたい。
- 5:50アウトリーチという言葉が嫌い専門知を社会に還元しましょう、というのは普通に権威主義だ。こっち側にリソースを確保しておいて、薄めたものをちょろちょろ配る。
- 7:00言語野が活性化してきた作品を作っているときは言語野がおろそかになる。THEATER Dの宣伝であちこちで喋っているうちに、また回るようになってきた。
- 9:10批評が頑張ってくれないと困る山口一郎の「音楽批評が大事」、市川沙央の「批評家は新人の作品を一個一個評論しろ」。作品を作る人は本当は批評を任せたいのだと思う。
- 12:30実作者の読み解きと外からの批評濱口・三宅の勉強会、小説家同士の谷崎読書会。作品の中で起きていることの面白さを大義名分でない形で言葉にする。それと、外側からの批評はどこか性質が違う。
- 19:10批評はステルス化するもっともらしい批評文を書くという形ではなく、インタビューをしたときのちゃんとした感じや、喋るときに思索の跡が見えてくることのほうへ。
- 23:20その場限りの用語法黒嵜想の話。お互いが自分の使ったことのない言葉を使い始めて、考えが変わっていくのを見ている人に見せられれば、それはもう批評だ。
- 36:00勉強するとキモくなる千葉雅也『勉強の哲学』。考察が流行りのものにリアルタイムでアクセスすることだとすれば、勉強は世のノリから外れてキモくなることを経由する。
- 39:00町山智浩再評価エンディングテーマの選曲の意図まで読み込んで、別の解釈を潰していく怖さ。10代のときは「キモい」と思ったが、人間それが必要なのではないか。
- 41:40エッセイ講座に出てきたおじさんパニック障害でかかりつけの薬剤師を好きになってしまう話、ガザの海岸で拾った石を10年越しに返しに行く話。いまのエッセイブームからは絶対に出てこない私性。
- 47:00内実が分からないとモンスター化する『ブラックボックス・ダイアリーズ』の捜査官A。世間から見ればキモいことで、当事者にとっては加害でしかない。でもそこに至る気持ちの内実も同じくらい見ていこうよ。
- 54:47Tinderで100人に日記を送る葉山莉子『Tinderレモンケーキエフェクト』。マッチした相手に日記を送ると、性的な対象ではなく「人生がある人間」として扱われ始める。やりもく除けになる。
- 57:05第三の道だがコピペで同時に100人へ送っているので、差し向かいのオーダーメイドなやり取りでもない。単純に性的に消費されるのでもなく、1対1でもない道が日記によって可能になっている。
- 1:00:00バカし合い込みのリアル真のコミュニケーションや心が通じ合う瞬間だけがリアルなのではなく、バカし合いも込みで全体としてリアルだという感じがする。
- 1:01:34カタコトに人格が宿る国際ロマンス詐欺の鍵はカタコトの日本語。そこに人格的なリアリティが宿るが、それは人工的に作られたものでもある。
- 1:03:00それぞれ勝手にやっているからやりとりが発生する「あなたの気持ちを教えてください」という同じ前提を作るためのコミュニケーションではなく、それぞれ勝手にやっているからこそやりとりが生まれる。そっちのモデルのほうがずっと気楽。
- 1:03:38心の交流と性のあいだのジャンプ『青野くんに触りたいから死にたい』は、深い人間的交流を経て尊い関係になった、では終わらず、最終的に「ただ触りたい」に戻る。分かり合ったからといって恋人になるわけではない。
- 1:06:22泣ける表現と泣けない表現どちらが偉いという話ではない。福尾の文章は涙を誘うものではないが、荘子itはソロで今まで言わなかったことを歌詞にすると自分でも涙が出てくる。
この回で出てきた言葉
- アウトリーチという言葉が嫌い大学でよく使われる「専門知を社会に還元しましょう」という言葉。
- 青野くんに触りたいから死にたい冒頭1ページで、ステレオタイプの圧縮によって超高速にラブコメが始まり、 青野くんが速攻で死ぬ。
- 心の交流と性のあいだのジャンプ『青野くんに触りたいから死にたい』が良かったのは、 最初がただの一目惚れ、ただ触りたい・セックスしたいという (しかも女性側からの)性欲でしかないところから始まり、 お互いの人格形成に関わる家族の問題がすごい深度で描かれたあとで、 「深い人
- それぞれ勝手にやっているからやりとりが発生する葉山莉子がTinderでマッチした相手に日記を送っていた——一番多いときは 同時に100人へ——という話から福尾が引き出した形。
- TinderレモンケーキエフェクトTinderでマッチした相手に日記を送る、という謎のプロジェクトから生まれた日記本。
- 動物化するポストモダン新書でありながら超平面性やラカン理論の謎の変形までやっていて、しかも10万部いった。
- 内実が分からないとモンスター化する『ブラックボックス・ダイアリーズ』の捜査官A——伊藤詩織にきわめて協力的だった人物が、 最終的に彼女をひどく傷つける。
- 入門書のジレンマ福尾が書き始める初の新書のモチベーション。
- バカし合い込みのリアル頂き女子りりちゃんや国際ロマンス詐欺と並べて考えると面白い、という文脈で。
- 批評はステルス化する批評能力は、もっともらしい批評文を書くという形では達成されなくなっていくのかもしれない。
- ブラックボックス・ダイアリーズ荘子itが「めちゃめちゃいい映画」と評する。
- 勉強するとキモくなる千葉雅也『勉強の哲学』(2017年)の核心。
- 勉強の哲学勉強は世のノリ・社会のノリから外れて「キモくなる」ことを経由する、 という前提から出発している本。
- 町山智浩再評価『ハート・ロッカー』論争で町山は、作品だけを見れば「どちらとも取れる」ところを、 エンディングテーマにミニストリーを選んでいるという選曲の意図まで読み込んで 「その解釈はありえないんだ」と潰していった。
- 山口一郎サカナクション。
- 私性の形式化エッセイブームと並行して、「私性」というものの形式そのものが偏り、 固まっていっている——丁寧な暮らし的な何か、ケア的な何か、 あるいは逆にケア的な何かへの違和感、といった方向に。
この回で触れられた項目
この回からの引用
アウトリーチって大学の中でよく使われる言葉なんだけど、専門知を社会に還元しましょうみたいな。でもそれって普通に権威主義じゃんって、ずっと昔から思ってて。
全然世のノリから外れて、社会のノリから外れて、キモくなるってことを経由するっていうことなんですよっていう前提から出発してるのがいいよね。
なんとかして答えにたどり着こうとしているときのもがきのキモさって、ノリには回収されないものだと思うんだよね。
単純に性的に消費されるわけでもないし、じゃあ1対1でオーダーメイドのやり取りをしましょうっていうわけでもない。その第三の道みたいなものが、日記っていうものによって可能になってる。
本当の真のコミュニケーションとか、真の心が通じ合う瞬間がリアルみたいなとこに行っちゃうんじゃなくて、ある種バカし合い、そのバカし合い込みのリアルでしょみたいな感じがあるんだよな。
同じ前提を作りましょうっていう目的のコミュニケーションじゃなくて、それぞれ勝手にやってるからこそやりとりが発生するみたいな。そっちモデルの人間関係の方がずっと気楽だよなと思うんだよね。